23.レイトの振り絞る最後の力!

小説
主要な登場人物
レイト 
 雷を操れる少年
 じいちゃんの言いつけで王都へと旅立つ
 また正義に生きることを目指している。
ルアル 
 魔法を使う魔術師の少女
 レイトとは旅の途中出会い、
 一緒に王都を目指す。

リモク村の登場人物
ルシィ 
 リモク村の宿屋を営む女性。
スバン
 ルシィのお父さん。傷だらけで登場
ニンバス 
 リモク村の木こりをやっている若い青年。
 実はルシィの幼馴染

魔物
ゴブリン
 基本はレイトと同じくらいの小さい魔物。しかし力はものすごく強く、ただの大人でも引けを取らない。大きいサイズもおり、そちらは力があまりにも強く成人男性が立ち向かっても、すぐにやられる。

大きな魔物
 大きなゴブリンよりもはるかに大きい5メートルはある魔物。
見た目もゴブリンとは全く違う。お腹は大きく丸く、その中央には大きな口がついている。またお腹の上には小さい顔がある。手は太く地面につくまで長い。大きなゴブリンを片手で握り潰すことまでできてしまう。

前回のあらすじ
 レイトの絶体絶命の危機にニンバスは覚悟を決めてレイトを守ることに成功した。しかし魔物の左手による叩き潰しは、ニンバスにとって耐えるのが精一杯で逃げることができなくなってしまった。レイトは自分1人で逃げることが選べず、ニンバスを救うためにとある行動を閃く。それは魔物の口へと飛びこむことだった。

口の中に飛び込んだレイトは、そのまま魔物の舌のようなものに倒れ込む。だがそれは無数のゴブリンたち連なっているものであり、レイトを必死に掴み取ろうとする。

レイトは手や足を小さい手で掴まれて奥へと引きずり込まれてしまう。
まるで餌を求める雛のように、レイトを必死になって掴み取る。

口内は、悪臭、粘りつくような粘液、無数の手のように群がる小さいゴブリンたち、どれを取っても地獄のような場所だった。

レイトの全身が魔物の吐瀉物だらけになる。

地獄のような場所だが、それでもレイトは無数にある小さい手を振り解き、剣を取り出すと、喉奥へと突き刺した。

そして言う。

「これが俺の全てだ!!」

そして全身に力を込めると、体中から雷を放出させた。

すると、魔物の口中が一瞬で炎に包み込まれた。

ニンバスは、魔物の手に耐えながら、レイトのことで思考が停止していたところ、突然魔物の口から炎が吹き出した。

「ぐわっ!」

ニンバスは、驚いてそのまま後ろへと尻餅をつく。それと同時に魔物もニンバスから左手を退けると口から火を吹きながら後ろへと倒れた。

「グガアアアアアア」

魔物は仰向けになりながら、悲鳴を上げている。

そして左手を口の中へに近づけようとすると痺れて硬直している。

それを見て確信した。

「そうか!口の中で雷を!」

レイトの起こした行動は、魔物が火だるまになりながら苦しみもがいている。

そんな姿を見て、かなりの有効打なのかもしれないとニンバスは確信した。

しかし一つ不安に思うことがある。
それは

(この炎の中で、レイトは大丈夫なのか!?)

ここまで口の中が燃え上がる姿を見て、レイトが無事であるとは考えられない。

だが、この状況でニンバスができることはなにもない。
痛む両腕に耐えながら、魔物が苦しみもがく姿を見つめるだけだった。

レイトは、燃える炎の中で、横たわりながら目を瞑り雷を放出し続けていた。

魔物が仰向けになりながら右左にジタバタ振るわせるもレイトは喉奥に刺した剣を握りしめて、放り出させるのを防いでいた。

全身が炎に包まれる。

だが不思議と熱さを感じない。

それどころか全身にへばりついてた粘液だけを燃やすように雷が流れた。

まるでレイト自身を守っているかのようだった。

このまま魔物を倒し切るまで、雷を出し続けるつもりだ。

だが、この雷を出し続けるのにも限界がある。

魔物が仰向けになったことから、さらに喉奥にいるレイトは、横向きに倒れた状態で、うっすらと目を開けた。

そしてその先にあるものを見て目を丸くした。

(これは…)

そこにあるのは黒紫色に輝く楕円形の宝石が一つ。

そしてその宝石を中心として放射状に肉が伸び、それらがこの魔物と結びついていた。

それを見たレイトは確信した。

(これが…ほんとの弱点だ…)

レイトは雷を全身で出しながら、なんとか腕を伸ばして突き刺した剣を引っ張り出す。

狭く横向きにいる状態で剣を構えるのが難しい。
それなら自身の体に添わせるようにお腹の前に持ってくる。

すると剣先が自身の顔の目前へと迫ってくる。

少しでも押し込まれるようなら、自身の顔に剣が食い込むだろう。

それでもレイトはしっかりと握ると、黒紫色の石を見つめて言う。

「ここまで…よくもやってくれたな!」

そして宝石へ狙いを定めると、そのまま剣を握った手を自身の腰の方へ引く。

様々な苦戦を強いられて、レイトにとっては初めての命危機に際した出来事だ。

それも今ここで終わらせる。

強く握りしめた剣を黒紫色に染まる宝石へと目掛けて、突き刺す。

「これで終わりだ!!」

そのまま宝石に目掛けて飛んだ剣は、宝石を砕きそのまま奥へと突き刺した。

ガラスのように脆い宝石は破片を飛び散らせながら、粉々になる。

すると魔物は、奇声を上げた。

「ギヒャアアアアアアア!」

それと同時に体が崩れ落ちるようにして、泥へと変貌していく。

それを目前に見ていたニンバスは、何事か分からずただ唖然と見続けていた。

気づけば大きな魔物は跡形も消えており、残ったものは燃える泥だけだ。

「やったのか…」

ただその光景を見ていたニンバスにとって、そう疑問に思うしかなかった。

燃え盛る炎が揺らぎ続けている。
いつのまにか静寂だけが続いていた。

ニンバスは、ハッと思い叫び出す。

「レイトくん!!大丈夫か!」

そう叫ぶと、ちょうど炎の中から何か姿が立ち上がった。

そしてこちらに向かって飛び出してくる。

ニンバスは魔物かと思い、腕を構えようとするも右腕は完全に使えない状態にまで痛んでいた。

そして何をすることもできずただ見続けていると、そこから飛び出したのはレイトだった。

「やった!!倒したぞ!!」

炎の中にいるとは思えないほど元気なレイトを見てニンバスは安心して叫んだ。

「無事だったのか!!」

咄嗟に叫んだニンバスだったが、すぐさまレイトは、倒れ込んだ。

「ぐっ…もう力が出ない…」

その姿に驚きながらも、隣に倒れたレイトを見る。

「大丈夫か!?」

レイトの返答はない。
ニンバス不安が過ぎる。

(そんな…まさか…)

ニンバスは、ここまで来て一番求めていない結末になるのではないかと不安と心配が積もる。

だが、そんなものはすぐに解消されることになる。

「ぐびーぐびー」

ただ眠っていただけだった。

ニンバスは、大きくズッコケそうになるも、一息ついて安心した。

「心配した…」

レイトは限界まで出し尽くしたおかげ、かなりの疲労が溜まっていた。

その結果、ルアルと同じように気絶するかのように眠ってしまったのだった。

そんなレイトの姿をニンバスは見ると、どうやら足元に火傷を負っているのがわかった。

だが、驚くことにそれだけだったのだ。

全身大火傷してもおかしくない燃え方だったにも関わらず、この怪我の少なさには、頭を悩ませる。

「あの炎の中にいながら、なぜ…?」

ニンバスは1人、不思議そうに呟く。
だが、わからないことを考えるのはやめて、ここから出ることを考え始めた。

まずニンバスは立ち上がった。
だが、足に筋肉痛のような痛みが走る。

「くっ…これでレイトくんを背負うことができるか…」

ニンバスは、両腕も強く痛めており、右腕に関しては完全に動かせない状況だった。

左手も辛うじて動くが、レイト1人背負うことさえ難しく感じている。

「…どうする」

色々と考え始めるも、どうにも解決する方法がない。むしろだんだんと頭が重くなるのを感じた。
そうして、ニンバスもレイトの隣で座り込んだ。

「まあ…だけど、一段落したから…少し休むか…」

口から溢れるように呟いていた。
ニンバスは相当無理をしている。
そのせいで、崩れ落ちるかのように座り込んでいた。
大きな魔物をなんとか無事に倒せたが、その安心感から一気に疲労感が伝わってくる。

「くっ……」

ニンバスも少し目を瞑ってしまう。
すると一気に睡魔に襲われ、ニンバスも次第に眠ってしまった。

レイトもニンバスも限界を出し切ってしまっていたのだ。

それから数十分が経った頃に、ニンバスは目を開ける。

「眠ってしまったのか…」

隣にいるレイトを見ると、変わらず眠っていた。

そんな姿を見て、この魔物の住処からでることを思い出す。

ニンバスは体を持ち上げようとするも、体が鉛のように重い。
頭がぼんやりとしている。
目を瞑ればまた眠ってしまいそうにもなる。

かなりの疲労感に襲われている。

それでも、起きなければ。

「まだ…あの化け物たちがいるかもしれない…」

そう言って歯を食いしばる。

「ここは奴らの住処だ。ここから出ないと安心はできない」

腕の痛みと疲労に耐えながら、なんとか立ちあがろうとした。

だが、うまく力が入らない。

足もの痛みがさらに強まる。

(きっと魔物の拳を耐えるのに無茶したせいだ)

自分で言いながら、少し笑いそうになる。
ここまで本気で無茶をしたのは初めてだった。

最初のときは小さい魔物ですら恐怖していたにも関わらず、あの大きな魔物の一撃を耐える事ができたのだから、少しは自信がつくところだ。

「村の人たちに…自慢しよう…」

そう言ってニンバスもレイトの横に倒れた。

単純に限界だった。
だがこの魔物を倒すことができたためか、どこか清々しくも感じていた。

「レイトくん、ありがとう。すまない。」

そうレイトに振り向いて言う。
以前としてレイトは眠っており、気づいていない。
そんなレイトに続いてニンバスは呟いた。

「俺も限界だ…」

力が入らない。
もう目を瞑って、もう少しの間休むことしかできない。
そう思ったニンバスは、また目を瞑る。

大きな魔物の残骸からは炎が燃えている。
それが今傷だらけの体を暖める。
このまま眠ってしまおうか。

そう思うニンバスだったが、洞窟の遠くから、何やら複数の足音が聞こえた。

「…また…あの化け物たちか…」

そう言うと、首だけを足音の方向へ振り向ける。

うっすらと何かが見える。

「あれは…火か…」

徐々にそれが近づいてくると、その足音の正体に気付いた。

「ニンバス!!生きているか!」

そう叫ぶのは、ルシィの父親であるスバンだ。
そして後ろに続くのが、戦いに来ていたであろう数人ほどの村人たちだった。

「スバンさん…」

弱々しい声で言うニンバスを見てスバンは駆け寄るとニンバスの上体を両手で起こす。

「もう大丈夫だ!ニンバスとレイトくんを今すぐ連れ出すぞ」

村人たちは頷き、レイトの様子を見ている。
どうやら寝息をかいていたことから無事なことに安心していたようだ。

「化け物はどうしたんですか…?」

ニンバスが呟くと、スバンは懸命な面持ちで答えた。

「そいつらは突然、崩れるようにして土になってしまった。私も満身創痍で戦っていたのだが、突然のことで驚いた」

それを聞いたニンバスは目を丸くしていた。

(それは…あの大きな化け物と同じような…)

あの魔物も燃えながら泥のように崩れていくのを見ていた。

(もしかしたら、親玉を倒せば、全員倒せたのか)

確証になるかはわからないが、なんだか妙に納得がいく気がした。

スバンは辺りを見回すと、近くに燃えている炎を見る。
それは大きな魔物だった残骸が燃えている炎だ。

「大きな叫び声や雷の鳴る音が聞こえていたよ」

スバンは視線をレイトの方へ移す。

「この少年がきっと倒してくれたのだろう。ここにいた化け物を」

それに対して、ニンバスは答えた。

「ああ、そうです。レイトくんの……いや」

ニンバスは言葉を止めた。
なぜなら、このままレイトのおかげだと言えばきっとレイトは納得しない。
だからこそニンバスは改めて考え直して答える。

「俺とレイトくんで、なんとか倒しましたよ」

そう言ってニンバスは笑みを見せた。
それに対してスバンも口角を少し上げて頷いた。

ニンバスは、スバンに背負われ、レイトは他の村人たちに背負われた。

「よし、このまま村まで向かうぞ」

そう言って村人たちは頷いた。

道中でニンバスはスバンに怪我のことを尋ねる。

「スバンさん、怪我は大丈夫ですか?」

すると、スバンは答えた。

「ああ、昨日の怪我は残っている。だが、動ける。問題ない。」

そう言って前へ進むと一間置いて言う。

「きっとあのルアルという少女のおかげだろう?ルシィが自分の傷を癒してくれたと話していてな」

それを聞いてニンバスは、ルアルたちの現状が気になった。

「ルシィやルアルちゃんは無事なんですか?」

「ああ、今は村まで運んで無事だ。ただ1人、ルアルちゃんはレイトくんのように気絶している。」

ニンバスは、それを聞いて不安になるものの、ニンバスは優しく答えた。

「命に別状はない。少し無理をしたようだ。しかしそのおかげで私たちは助かった」

それを聞いてニンバスは安堵すると一息ついた。

スバンは自身の傷の痛みを感じている。
だが、ここまで体を動かすことができるのも、レイトやルアルがいたからこそだと改めて思った。

「起きたら、感謝を伝えよう」

そうスバンが言うと、ニンバスは頷いた。

道中に魔物の気配はなかった。
まるで最初からいなかったように、あたりは静寂に包まれていた。

レイトもニンバスも疲労のせいで眠りにつく。

スバン率いる村人たちに運ばれて、村の医者がいる場所まで運ばれるのであった。


大阪行きの飛行機内で書いていました。
もう魔物退治編は終わりになりそうですね。
この話が終われば朗読会をやってみようかなと思います。

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