10.ルアルの決断!

小説

その姿は、レイトだ!

レイトは、魔物の背後まで飛びかかり、両手で掴んだ剣を振りかざそうとする。

しかし魔物は足音に気づいたのか後ろに振り向いた。

いきなり現れたレイトの姿に驚くも、すかさず棍棒を自分の顔の前に振り上げる。

レイトはそのまま剣を振りかざしたが、振り上げた棍棒に直撃するも魔物の力によって押し返された。

「まずいっ……!」

剣はそのまま後ろに流れ、レイトは背中を反るように、体勢を崩した。そのまま後ろによろめきそうになる。

それを見た魔物は、ギラギラと目を輝かせながら、ニヤリと笑うと、すかさず棍棒を握り直してレイト脇腹を目掛けて、振り放った。

「…!!」

レイトは、抵抗できない今、直撃するのを覚悟で、脇腹に力をいれる。

バキン!!

しかし、その音共に棍棒は跳ね返っていた。

レイトは、一瞬何が起きたかわからなかった。

ただ次の声の一言で理解することができた。

「レイト!今よ!!」

ルアルが魔法で跳ね返したのだ!
それに気づいたレイトは、反った背中を戻すように力一杯に剣を振りかざす。

「おらああああ!!」

振り下ろすと同時にビリビリと剣に雷が宿り、そのまま剣は魔物に直撃した。

魔物の顔をぐさりと剣が突き刺さると同時に、薄紫の血が飛び散った。

「グギャァ」

そう鳴いて、魔物は崩れ落ちた。

「はぁ…はぁ…」

レイトは息を吐いた。
魔物との戦いが終わり、どっと気が抜ける。

これほどの大きな生き物を倒したのは初めてで、体が強張っていた。

また初めての命の危機で鼓動が鳴り止むことがなかった。それはルアルも同じで、お互い少しの間、立っていることしかできなかった。

一息ついて、ルアルは我に戻る。
すると倒れてる女性に駆け寄って、怪我をしている足元にしゃがみ込んだ。

骨が折られた箇所に手をかざし、どうやらスバンに行ったことと同じ癒しの魔法を使っている。

そんなルアルを見てレイトは我に帰った。

「…ルアル!ありがとう」

そういうとルアルはレイトのほうに顔を振り向けた。

「あんた!どこ行ってたのよ!!」

そう怒ると、レイトは申し訳なさそうな顔をした。

「うぅ…すまない」

そう一言謝るとルアルは、レイトから顔を背ける。

「もういいわよ…!それより…」

倒れた女性の足の怪我の具合を再度見ていた。

「私にはもうこれ以上治せない」

どうやらルアルの癒しの魔法は、骨を完全に治すことはできないようだった。

少し悲しそうな顔をするルアルは、女性を抱えようとする。

それを見てレイトは、ルアルの隣のほうへいき、そっと女性を自分の元へ抱える。

「無茶するな」

そういうとルアルは、レイトからそっぽを向いた。

「別に無茶なんてしてない」

しかし、そう言われても明らかに疲労が見えていた。
レイトを守る時に使った魔法と怪我を治すために使った癒しの魔法、それがルアルにとって大きな負担になっていることは明らかだ。

レイトは女性を背負うために、背中の位置に女性が来るように、懐に入る。

その時、男の声が聞こえてきた。

「君たち大丈夫か?!!」

その声のほうに振り返ると、スバンの家にやってきた青年が、手を振って走ってくるのが見えた。

それに対して、ルアルは答えた。

「女の人が怪我をしてます!」

そう大声で返すと青年は心配そうに走り寄ってくる。
近くまでくると、青年は魔物の遺体に驚いていた。

「君たちが、バケモノを倒したのか…!?」

そう言われるとルアルは否定しようとしていたが、その前にレイトが頷いて話した。

「俺とルアルが倒した」

ルアルはレイトを見ていたが、何も言わず黙っていた。
それを聞いた。男は目を丸くし、魔物の遺体を慎重に見ていた。
身の毛も立つような、醜悪な姿に唾を飲む。
黙り込んでしまった男に、ルアルが声をかけた。

「この人、足を怪我をしているんです!医者がいるところに運んでください!!」

そういうと青年はハッとして頷いた。

「すまなかった」

そう一言謝り、レイトの方へ行くと、代わりに女性を背負った。

「君たちもついてきてくれ」

そう言って、走り出した青年の後を追うように、レイトたちもはついて行くことにした。

医者のいる小さい家まで行くと、青年は女性を背負って家に入って行った。

怪我人は多く、家内は大忙しのようだ。
それを見てルアルとレイトは外で待つことにした。

2人とも並んで家の壁にもつれかかって、じっとしていたところ、レイトが話し出した。

「俺はルシィを助けに行く!」

それを聞いてルアルはレイトを見た。

「あんたさっき私がいなかったら、やられてたわよ」

それを言われて、レイトは悔しくなり、歯を食いしばっていた。

事実、レイトもあの一瞬ルアルの魔法がないと、怪我をしていた。それどころか死んでいてもおかしくはなかったかもしれない。
そう思うとレイトの身が震えた。

「うん…俺はルアルがいなきゃやられてた」

そう悔しながらに答えた。
それをルアルは横目に見ていた。

「私たちは、まだこの問題を解決するほど強くないわよ」

そう言ってルアルは続ける。

「第一、私たちの目的は王都に行くこと、それを放って、ここで命を落とす危険をしていいの?」

そう言われて、レイトは答えず、目をつぶって考える。数秒沈黙後に答えた。

「でも、やっぱりルシィを救いたい」

それを聞いて、ルアルは黙っていた。

次にレイトはルアルの気持ちを問うように質問を投げかける。

「ルアルは、ルシィがこのまま酷い目にあっても辛くないのか?」

その問いに、ルアルは下唇を噛んだ。
そして、大きな声で言った。

「辛くないわけないじゃない!!私だってルシィさんを助けたいわよ!!」

ルアルのその強い思いを聞いて、レイトはルアルは見る。そして手を差し出して言う。

「なら、救いに行こう!」

レイトが真剣に言う姿をみて、ルアルは答えに躊躇する。
そこでレイトはルアルに大きく頭を下げた。

「お願いだ!俺1人だと、きっと救えない。さっきもルアルがいなきゃ大怪我してた。だから、一緒に戦ってほしい…!きっと2人なら助けられる」

その助けれる確信は、どこにあるのかはわからない。
ただレイトの必死な態度を見て、ルアルはどうしようか迷っている。
自分の尊厳と心で戦っている。

そして目を瞑って数秒悩んだルアルは答えた。

「……前にも話したけど、魔法っていうのは便利なもの……この世界では、それが当たり前にあるわけじゃない…だから困っている人がいれば何でもかんでも魔法を使って救っていいわけじゃない」

そう言われてレイトは、悲しそうに俯いた。
ルアルは悲しそうなレイトを見て、目を逸らして、続けた。

「魔法のせいで、この世界の均衡が崩れ、新たな災いを生むかもしれないの」

レイトは何も答えない。
ルアルの言っていることに、納得はできないけど、何も言い返すことができない。

レイトは、ルアルの説得を諦めていた。

「でもね…」

ルアルがそういうと、レイトは顔をあげる。

「もうこの村に来て何度も魔術を使って救ってる」

そう言って、自身の杖を取り出して、見つめる。

「それなのに…」

そう一呼吸おいて、ルアルは言った。

「ほんとに救いたい時だけ、助けないなんて選べないよ」

まるで杖と会話するように言う。
そんなルアルをレイトは見る。

「ルアル…」

その呼びかけと同時に、ルアルは杖からレイトに視線を変える。
そうして答えた。

「助けに行きましょう…ルシィさんを」

レイトはルアルのその発言を信じられないと言わんばかりに驚いていた。
でも、確かに聞こえた。
ルアルが応えてくれた!

「……ありがとう!」

そう一言レイトが言うとルアルは首横に振った。

「勘違いしないでよ、今回だけだからね!」

レイトはそれに大きく頷くと言った。

「じゃあ助けに行こう!!」

今にも飛び出したいと言わんばかりのレイトに、ルアルは冷静に答えた。

「ただ私たちは場所もどこか知らないわ」

確かにとレイトは手で相槌を打った。

「なら村の人に聞こう」

そうレイトが言ったところ、ちょうど青年が家から出てきて、こちらへと向かってきた。

青年は何かと忙しそうで、ため息をついた。

「怪我は大丈夫だったんですか?」

心配そうにルアルは聞くと、青年は答えた。

「骨は折れてたけど、命に別状はないとのことだ」

ふぅとひとつ息を吐いたルアル。
少し安心したようだった。

それを見たレイトも安心し、青年に魔物の居場所について聞こうとした。
しかしその前に青年から思わぬ言葉を聞く。

「君たちに頼みがある」

そういってレイトたちを見る。

「ルシィを助けに行ってくれないか?」

青年は頭を下げた。
予想外なお願いに、レイトもルアルも黙ってしまった。
そして頭を上げた青年は続ける。

「君たちには不思議な力があって…バケモノを倒したのも……さっきの女性やスバンさんを治したのも…その力のおかげなんだろ?」

思ったよりも、見抜かれていたことにルアルは、少し驚いた。

「…うん」

ルアルは頷く。

「ならお願いだ」

そしてまた頭を下げる。

「この村の人たちはバケモノを倒すほど強くない…きっとルシィを助けに、みんなでバケモノのもとへ行くだろうけど…きっとやられてしまう」

青年は、悲しく、悔しいと言わんばかりに声を上げる。
そんな青年を見たルアルは言った。

「顔をあげてください」

青年は、ルアルを見る。

「私たちが立ち向かってどうなるかは正直わかりません」

そう言って、ルアルは続けた。

「それでも、ルシィさんを助けることができるかもしれません」

レイトも頷いて話し出した。

「ちょうど今ルシィを助けに行くことをルアルと決めたところだ!」

青年に笑みを浮かべながら、レイトは言った。

「だから、助けに行こう!」

それに対して、また青年はお礼をした。

「ありがとう…!!」

それに対してレイトとルアルは笑みを浮かべていた。
ただすぐに真面目な顔になったレイトは待てと言わんばかりに手のひらを振った。

「まだ感謝は早い!」

そう言って青年は顔を上げる。
ルアルも目を丸くしてレイトを見ていた。

レイトは体の前で手を握り締めて言う。

「バケモノの居場所を知ってるか?」

そう言って青年は頷いた。
こうしてレイトとルアルは、青年とともにバケモノの住処へ向かうことになる。


なんと更新が続いています。
何かとやる気が湧いてる模様です!
今後は、今回ペースよりも早くできたらなと思ってます。
ちなみに次回のタイトルは「魔物の住処」です。
もうやる気しかない。

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