9.レイトの我慢の限界

小説

「ルシィがバケモノどもに攫われた!!」

そう聞いたスバンは、目を見開き、拳に力を入れて、即座に体を持ち上げようとする。
しかし、うまく体を動かすことができず、ベットから倒れ落ちそうになる。

それをレイトとルアルは支えた。

「くっ………なんだと!!」

スバンはそう言って、体を震わせていた。それをレイトとルアルは肌で感じ取っていた。

そんな中ルアルは冷静に一言放つ。

「無茶をしないでください」

そう言われたスバンは、つい言い返してしまう。

「無茶せずにいられるか!!」

怒号に近い声に、すこしルアルは戸惑い肩を震わせた。

それを見てスバンはすぐさま我に戻った。

「すまない……」

スバンは怒りや悲しみといった負の感情で、心の中は混乱している。しかし今の自分はただ、歯を噛み締めることしかできなかった。

そこで一つ大きく深呼吸をして冷静になる。

「奴らの住処は昨日見つけてある。そこにいるはずだ。すぐ向かおう」

そういうとすぐにレイトが叫んだ。

「なら俺が行く!」

自分が助けて見せると言わんばかりにレイトはスバンの方へ身を乗り出して言った。

「ダメだ。君たちはお客さんだ。危険な目に遭わすわけにはいかない」

スバンは断った。
それを聞いたレイトは怒った。

「なんでだよ!ルシィが大変な目に遭ってるかもしれないのに!!」

それでもスバンは納得しない。
むしろ感謝の気持ちを抱いていた。

「レイトくんありがとう。そう思ってくれるのは嬉しい。しかしこの村の事情は、我々村人が解決することだ」

レイトは拳を強く握りしめていた。悔しいと言わんばかりに歯を噛み締めた。
そんなレイトに対しルアルは、レイトの肩を叩いた。

「やめなさいよ、レイト…」

ルアルの一言にレイトは納得できずにいた。
そこにスバンは優しく語りかける。

「この村の出来事だ。君たちが気にすることじゃない。」

そういってレイトをなだめた。

「君たちは王都に向かう必要があるのだろう。こんなところで怪我でもしたら大変だ」

レイトはうつむいて何も言わなかった。
ただひたすら歯を噛み締める。

スバンは、そんなレイトを見て、引け目を感じていた。
それでも危険に晒したくなかったのだ。

「君たちと会えてよかった。きっとルシィも喜んでいたはずだ」

スバンがそういうとレイトは思いっきり顔を上げた。
歯を強く噛み締めていた口を緩めたと思いきや、叫び出す。

「ふざけるな!!そんなこと言われて何もしないで王都になんか行けるか!!」

レイトは我慢していた。
スバン自身が今辛い思いをしているのに、その辛さを押し殺して、自分たちに気遣ってくれる。その優しさに。

そして今までの何よりもルシィとの記憶が鮮明に思い浮かび、居ても立っても居られなくなっていた。

すぐさま後ろを振り向いて、外へと走り出す。

この行動に周りは少し驚いていたが、ルアルが一言お辞儀するように謝った。

「すみません」

そう言われてスバンは申し訳なさそうにした。

「いいんだ…それよりレイトくんを追いかけてくれ」

ルアルは顔を上げてスバンを見た。
悲しそうな顔をしていたが、せっかくの気遣いを無駄にはしたくないルアルは「うん」と頷く。

「あと王都の行き先は、村の出口から東の方に道がある。そこを通るんだ。」

これはお別れの言葉でもあった。
悲しいお別れだけれでも、ルアルはそれに納得し、また改めてお辞儀をした。

「ありがとうございました」

そういうとルアルもレイトの後を追いかけるように急いで外へと向かった。

その後青年と2人きりになったスバンは、少し沈黙していた。

「いい子たちですね」

そう青年が言うと、スバンは頷く。

「あれだけ真っ直ぐな子を危険には晒したくはない」 

その回答に青年も頷いた。
静けさだけが残る今スバンは、ルシィのことを考えていた。
すると何かを思い出すようにハッとした。

「そういえばルシィがあの子達の旅立ちに用意していたものがあった」

そう言って青年に宿の受付の方に指を刺した。

「受付のところに置いてある。まだ近くにいるはずだ。渡してくれないか?」

スバンはお願いをする。
その問いに青年は答えた。

「わかりましたスバンさん」

青年は急いで、部屋を出ていった。

1人になったスバンは一言放った。

「私も準備しなくてはな…」

そういいスバンは、自身の力を確かめるように指を曲げる。
どこかまだ力が出そうにないが、それでも行くしかないと覚悟を決めていた。

ルシィが、今どんな状態かわからず不安な気持ちでいっぱいだからこそ、無理矢理でも行こう、そう決心するのであった。

そんな中、ルアルは外を出て走りながら辺りを見回していた。

村の荒れようは酷く、住民の泣いてる声や、最低限の治療を受けた怪我人が横たわっていた。

建物も傷だらけになっている。

そんな中レイトはどこにいるのか見当がつかない。
ルアルは足を止めて一つ考える。

(あいつどこいったのよ…!)

ルアルはどこを見てもレイトが見えないことから

(まさか…村を出て魔物の住処でも見つけに…!?)

そうルアルは考えていた。
ただ場所を知らないはずだから…流石に…と思い直すも、レイトの実行力を考えるとありえなくもない。

ルアルは酷く頭を抱え込んでいた。
と、その時、だれかの悲鳴が聞こえた。

その方角に振り向きルアルは走った。

村の隅に位置する方だった。
建物の角を曲がると、そこには1人の女性が倒れており、その前に何やら人には見えない緑色の後ろ姿をした生き物が立っていた。

ルアルはそれを見てとっさに、

(魔物だ!!)

そう思い、足が止まって、思考が停止してしまった。

緑色の魔物は、大人の半分くらい、レイトと同じほどの身長だ。
しかしそれに見合わぬ、筋肉が腕にあり、ゴツゴツとした体をしていた。
右手には木を削って作ったであろう棍棒が握られている。

「ゲフゲフゲフ」

と奇妙な鳴き声をあげている。

倒れている女性は、魔物から遠ざかろうと、身を引きずるように腕を使って前進する。

「誰か助けてください!!」

魔物の恐怖でルアルに気づいていない様子で、大きな声を出して助けを呼んでいた。

そんな魔物はニタニタと笑うように足を掴む。

そして、そのまま足の骨ごと握りつぶしてしまった。
ゴキッ、鈍い音共に、叫び声を上げる。

「ぎゃあああ!!」

女性は悲鳴をあげて気絶してしまった。

そんな光景を見てルアルは、停止した思考が動いた。

「ひっ……これが‥魔物」

つい言葉が漏れてしまった。
実のところルアルは魔物を、今まで本でしか見たことがなかった。
そのため初めて見る魔物のおぞましい姿に、唖然としてしまったのだ。

(どうしよう……)

恐怖で魔法を使うための集中がうまくできなかった。

とりあえず杖を用意するが、言葉が思い浮かばない!

魔物はそのまま村の女性を引きずるように歩こうとする。

すると、ルアルの後ろから誰かが飛びかかった。

その姿は、レイトだ!


ちょっといろいろありましたが…
小説はいつでも忘れてません!!
完結させるまで書くぞ!

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