主要な登場人物
レイト
雷を操れる少年
じいちゃんの言いつけで王都へと旅立つ
また正義に生きることを目指している。
ルアル
魔法を使う魔術師の少女
レイトとは旅の途中出会い、
一緒に王都を目指す。
リモク村の登場人物
ルシィ
リモク村の宿屋を営む女性。
スバン
ルシィのお父さん。
ニンバス
リモク村の木こりをやっている若い青年。
実はルシィの幼馴染
魔物
ゴブリン
基本はレイトと同じくらいの小さい魔物。しかし力はものすごく強く、ただの大人でも引けを取らない。大きいサイズもおり、そちらは力があまりにも強く成人男性が立ち向かっても、すぐにやられる。
大きな魔物
大きなゴブリンよりもはるかに大きい5メートルはある魔物。
見た目もゴブリンとは全く違う。お腹は大きく丸く、その中央には大きな口がついている。またお腹の上には小さい顔がある。手は太く地面につくまで長い。大きなゴブリンを片手で握り潰すことまでできてしまう。
前回のあらすじ
魔力が尽きたルアル、そしてルシィへゴブリンが棍棒を振るった。だが危機一髪、スバンが駆けつけゴブリンと対峙する。そしてレイトたちも、大きな魔物と対峙していた!
レイトは、今大きな魔物を前にしていた。
その魔物は後ろに燃える炎の海を背景に、レイトを見ている。
次にお腹にある大きな口を開けて鳴くと、地面を叩きつけるように大きな手を振るう。
それを見てレイトは間一髪で、横に飛び込んで避ける。
すぐさま体制を立て直すと、剣を大きな魔物の腹部に突き刺す。
「くっ…」
しかし、皮膚は固く突き刺すことはできない。
すぐさまレイトは後ろに飛んで、大きな魔物から距離をとった。
真正面にいる魔物の目線は、夢中でレイトを追いかける。
地面に届くほどの長く大きな右手を振り上げると、今度はレイトの元へ突き刺すように拳が飛んでくる。
すかさずレイトは右の方へ走りながら飛び込んだ。
ズドン!!
大きな揺れと共に、レイトがいた場所には大きな魔物の拳が地面に突き刺さっていた。
それを見てレイトは唾を飲んだ。
あの一撃を喰らえば一瞬にして死ぬだろう。
その恐怖が駆り立てられるも、一呼吸して落ち着く。
レイトはこの魔物を目前にして剣を握る。
立っている向きが変わって、炎の光がレイトと大きな魔物を照らしだした。
その姿をニンバスは、炎の海の前から見ていた。
(レイトくん…大丈夫か)
ニンバスは、炎の前に立つことで暗闇にいる時よりも松明の火が目立たないようにしていた。
背後に当たる炎の熱が熱く感じる。
だが、今はそれどころではなかった。
レイトとニンバスは、炎の海からこの魔物を誘き寄せることに成功し、その後二手に分かれて、レイトが囮になるように行動した。
(ここまでは、なんとか上手くいったぞ…)
正直ニンバスの元から気を逸らすことが、簡単にできたことには驚いた。
これは魔物の知能が低かったおかげで、上手くいったのだとニンバスは考えていた。
(ここまではいい…あとは…俺が……)
そう思って自信が持っている松明の火を見つめる。
レイトは現在魔物を挑発して、大きな口開けた状態で隙を作ろうとしている。
その隙ができた時にニンバスが持っているこの松明を放り込むことで作戦は成功する。
うまく行けばこの魔物を倒せるかもしれない。
そう考えたニンバスは一息吐いた。
心臓が高鳴る。
緊張と恐怖で足が震えそうになる。
「くっ……」
ニンバスは松明を握り直す。
自分が決め手になる。
そう考えるとどうにも手足が汗で滲む。
「レイトくんが…命をかけているんだ…俺もしっかりしなくては…!」
チャンスを見流さないためにもレイトと魔物の戦いを常に見続けていた。
レイトは目前に立つ大きな魔物と睨み合っていた。
大きな魔物は、左手を挙げるとレイトに向けて振り落とす。
レイトは右に飛び込んで避ける。
(…動きは単調だ。だからこそ先の動きが読みやすい!)
自身の剣に雷を宿して、隙をつくように左腕を切り付ける。
しかし皮膚は硬く、相変わらず刃が通らない。
それでも雷を嫌がっているかのような素振りをしていた。
「グオオオ!」
大きな口が開く。
しかし左手を自身の体に巻き付けるように周囲へと振るう。
「っ……!」
大きな縄のように飛んでくる左手を、すぐさましゃがみ込んで、難を逃れる。
「あぶねええ!!」
しゃがんだレイトはすぐさま立ち上がって、魔物との距離を取る。
「どうしらいい…」
大きな口を開けることはあるが、そこまで近づいて松明を放り込むのは容易ではなさそうだ。
魔物の大きな腕、これがなんとも邪魔をしている。
この腕が振るわれて、人間にあたるようであれば全身の骨が粉々になってしまうだろう。
レイトは呼吸して冷静に考える。
そして剣を構えた。
「もう一回!あれを当てるしかない…!」
レイトの中で考えたのは、剣に雷を溜めて放つ一撃。
あの一撃はこの大きな魔物でさえ、一時行動不能にするくらいの威力だ。
(ただ…あれを当てられたのはニンバスが囮になったおかげだ……だけど…)
レイトは悩む。
今は全員がはっきりと炎に照らされ、魔物が活発的に攻撃してくる状況の中、ニンバスがもう一度囮役になっても、魔物の攻撃から無事に避けられるか不安だった。
「…やっぱりもうニンバスを危険な状況にはできない…ここは俺がやる!!」
レイトは、強く決心した。
あの一撃を放つために、剣に雷を即時に溜める。
これを習得するために、レイトは剣先に集中する。
しかし魔物は、その集中した隙にすかさず、右手をレイトの元へ叩き込む。レイトはそれに反応が遅れてしまった。
ニンバスは咄嗟に声を上げる。
「レイトくん!!」
不安が一気に積もる。
ここでレイトが亡くなったらお終いだ。
だが、レイトはギリギリのところで交わすことができていた。
魔物の右手のすぐ左側に尻餅をついていた。
ニンバスは、一気に安堵する。
レイトは、剣を握りしめたまま、魔物の右手からすぐさま立ち上がると距離を取った。
「グオオオ!」
大きな口で鳴き叫ぶ魔物を見て、レイトは剣を構え直した。
そうして息を吸うと一言放つ。
「攻撃がくるのなら…!」
レイトは魔物に剣先を向けた。
「それを避けて雷を溜めればいい!!」
強く剣を握りしめる。
「そうしてお前に俺の一撃を喰らわしてやる!!!」
レイトは剣に雷を集中させた。
ニンバスは、離れた場所でその声を聞いて、レイトの行動を理解した。
「レイトくん…そうか…あの時の!」
あの最初の作戦を思い出していた。
あんな怖い思いをしたのは初めてだった。
だけど今、深呼吸をして自身の緊張や恐怖を落ち着かせる。
そしてニンバスは改めて決心をする。
それは自分がまた囮になることだ。
魔物は右手を鞭のようにレイトへ振るう。
それを見て、レイトはすかさず右に飛び込んで避ける。
「っ!!」
地面に倒れたレイトは、すぐさま膝をついて立ち上がる。
「あぶなかった…!」
魔物は歩き回るネズミを追いかけるようにレイトの方へと前進してくる。
そして自身の腕を使って叩きつけようとしてくる。
「どうにかして集中しなければ!」
レイトは剣構えて雷を宿す。
ただそれだけでは、あの一撃を放つための雷の量は足りない。
「ううう!!」
レイトは唸り声を上げた。
(うまくできない…!!)
魔物はまたレイトを叩き潰そうとする。
「集中しろおお!!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。
最初に村のゴブリンと戦った時は死の間際でもあったおかげで、瞬時に雷の一撃を放つことができた。
だが今はアレだけの雷をすぐに溜めれるような、集中力がない。
それに今回の魔物との戦いで、雷の操作法が感覚的に理解し始めたことが、逆にあの時の一瞬の出来事の再現に苦戦していた。
魔物はレイトに狙いをつけて、左手を上へと振り上げる。
「くっ…またか!!」
レイトは剣に集中するのをやめ、避ける行動に出た。
だが、その時に魔物の顔に人の拳くらいの石が直撃する。
「グガッ」
そう鳴くと魔物は振り上げた手を引く。
そして目線をレイトから斜め右の方向へ向く。
それにつられるようレイトも振り向くと、少し離れた位置に、左手に松明を持ったニンバスの姿があった。
ニンバスは、立ち尽くしながらもレイトを見て叫んだ。
「レイトくん!きっとあの一撃を放つんだろ!?」
そう叫ぶニンバスは一呼吸おいて、レイトに伝える。
「なら、俺が囮になる!!その間に準備してくれ!!」
それを聞いたレイトは、ニンバスの行動に目を丸くしながら、大きく頷くと、元気よく答えた。
「ああ!!なら任せたぞ!!」
ニンバスは口角を上げ頷く。
すると、すぐさま右手に持っていた石を思いっきり、魔物に向けて投げ飛ばす。
またもや魔物の顔に直撃する。
「良い命中率だ」と叫びたくなるところを抑えて、松明を振るうと大きく叫んだ。
「おい!!化け物!!俺が相手だ!!」
魔物は視線と体の向きをすぐさまレイトからニンバスへと移す。
ニンバスははっきりと明るくなった姿の化け物を真正面から見て震えている。
その姿は恐怖そのもの。
5メートルほど大きい体に大きなお腹には、奇妙にも大きな口がついている。それなのにお腹の上には小さい顔がある。両腕は地面につくほど長く、丸太のように太い。
そんな化け物を前にして、それでも手を強く握り、歯を食いしばりながら、魔物に立ち向かう。
そんな姿を見たレイトは答えた。
「ありがとう!!ニンバス!」
レイトは笑った。
そして魔物の方へ、目を向けると目を閉じる。
(俺の剣は雷だ…)
一本の剣が空から振る雷と同様にあるとイメージをする。
そして深呼吸をする。
バチバチと徐々に雷が剣に帯びていく。
そうして剣先から青白い光が飛び散る。
ニンバスは、レイトのいる位置から視線を逸らすために、レイトの位置から右半径を描くように走った。
そのまま松明の火を振り続け、魔物の視線を釘付けにする。
「こっちだ!このやろう!」
そう言いながら地面から石を拾うと魔物の顔に目掛けて投石する。
「ガフフ!」
魔物はイラつきながらも、大きく短い足を動かしてニンバスの方向に体を向ける。
するとそこから長く大きな左手を振り上げると、ニンバスの方へ振り落とした。
ニンバスは、それに対して動きを止めて、逆方向に急いで走ろうとするも、体が追いつかない。
自身の目前に魔物の手が落ちてくる。
ズドン!
「ぐはっ!!」
ニンバスは、目の前に落ちてきた手のひらの風圧に尻餅をついた。
またその勢いで松明の火が消えてしまった。
「しまった…!」
ニンバスは、火が消えた松明を見て思考が停止してしまった。
(どうすればいい…!!)
そう考えている内に、魔物の左手はすぐさま起き上がる。
「あっ…」
尻餅をついたニンバスは起きあがろうとするも間に合わず、そのまま魔物の手のひらに掴み上げられた。
「くそっ…!」
ニンバスは魔物の左手から逃れようと力を込めるも、あまりにも微動だにしない。
まるで鉄の縄に括られているようだった。
そのまま魔物の顔の前まで手を運ぶと徐々に握り締める力を強めていく。
ニンバスはそれにうめき声をあげた。
「があああっ…!」
その痛みに叫んでいる姿を魔物は喜ぶように鳴き始める。
「ガフフ!ガフフ!」
ニンバスは、握り潰される痛みと恐怖に怯えた。
徐々に強まる力に成す術もない。
苦しみ喘ぎながら絶望する中、脳内に声が響いた。
「ニンバス!!もう大丈夫だ!!」
強く叫んだその声は、レイトのものだ。
レイトは自身の前に両手で握った剣を見る。
そこには青白く発行した雷を帯びた剣がある。
今までとは違い、大きな光の塊はあたりを大きく輝かし、青白い線は周囲へと飛び散りながら音を鳴らす。
それが魔物の気を引かせた。
魔物の小さい顔だけがレイトの方を向く。
そこにいる小さい少年は、雷を宿した剣を自分の顔の横に持って構えると、魔物の元へと走り出した。
「行くぞおおおおお!」
剣を構えたまま走り寄るレイト。
魔物は何もしないわけがない。
ニンバスを掴んでいない右手で、レイトを振り払う。
振り払われた腕は、このままだとレイトと正面衝突する。
しかしレイトは避ける行動を取らなかった。いや取れなかった。
なぜなら剣に雷を宿し続けるためには集中を解くことはできないからだ。
(…くっ!!‥このまま無駄にさせるか!!)
レイトはその場で走るのをやめた。
そしてたった一つの考えを思いつく。
それは単純で今最善な答え。
それは。
(このまま右手に向かって、剣を振り落とす!!)
レイトは襲ってくる右手に向かって、剣を高く上げると、魔物の手が自身の目の前に来たところを狙って振り落とした。
雷が落ちる音が鳴り響く。
音からもわかるとてつもない威力。
地面に剣が直撃した瞬間、地面の砂が巻き上げられた。
それと同時に魔物は叫び声を上げた。
「グガアアアアアア!!」
ニンバスを掴んでいた左手が緩むと、ニンバスはその隙間から地面へ落下する。
「ぐはっ!」
地面に叩きつけられ、肺の空気が抜ける。
数秒苦しさに喘ぐも、それが逆に朦朧とした意識を取り戻した。
なんとかその苦しみが落ちついてくると、現状を確かめるためにニンバスは必死に体を持ち起こした。
そして魔物の右手の方へと目を向ける。
そこには砂埃が舞っている中で、立っている少年がいた。
「レイト……くん…」
地面から煙が立ち込めている。
その近くには大きく切断された魔物の右手が転がっていた。
それを見て、目を丸くしたニンバスは、驚きながらも、レイトの方へと駆け寄ろうする。
しかし、それを制しするかのようにレイトは叫んだ。
「に…げ…ろ!!」
そう叫ぶレイトは地面へと倒れ込んだ。
久しぶりの投稿になってしまった…
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