16.レイトの直感とわがまま

小説
主要な登場人物
レイト 
 雷を操れる少年
ルアル 
 魔法を使う魔術師の少女

リモク村の登場人物
ルシィ 
 リモク村の宿屋を営む女性。
スバン
 ルシィのお父さん。
ニンバス 
 リモク村の木こりをやっている男性。
 実はルシィの幼馴染

魔物
ゴブリン
 基本はレイトと同じくらいの小さい魔物。しかし力はものすごく強く、ただの大人でも引けを取らない。大きいサイズもおり、そちらは力があまりにも強く成人男性が立ち向かっても、すぐにやられる。


前回のあらすじ
ルシィに無事に会えた一行は、謎の魔物が歩き回る中、洞窟の出口に向かうために洞窟の小部屋から出ることを決意した。

レイトはあたりが暗く先が見えないが、何かいる気配を感じていた。
それでも周りを見回して、目印を探す。

「あそこだ!」

そう言って指を刺した方向に、ゴブリンが燃えていた残火がかすかに見える。

今にも消えそうな火を目印に急いで走りだした。

だがその瞬間、レイトの右側から突如、大きなゴブリンが飛び出してきた。

レイトを狙って、ゴブリンは自身の手を振る。
それに対してレイトは右手をすかさず頭を防ぐように防いだ。

しかし爪がレイトの腕の肉を引き裂き、そこから血が滲み出した。

「うっ!」

レイトはそのまま倒れこむ。
その場にいたニンバスとルアルは絶望感が襲う。

目の前には火に焼けて皮膚がただれてしまった大きなゴブリンいた。

「ガアアア!!」

そう叫んぶと、恨みがあるかのようにルアルを見て襲いかかってくる。

ルアルは、恐怖しながら足を止めていた。

(最初に火の魔術で倒しきれてなかったんだ…)

ルアルはそう思って、自分の未熟さに大きく肩を落とした。
恐怖で足が震えてくる。

それでも、みんなを支えるという意思を思い出して、杖を構えた。

「ここでやられてたまるか!!」

そう言って急いで杖をゴブリンへと向ける。

しかし魔術を放つことがルアルにはできなかった。

魔力の量が少なくなったことで精神状態が不安定化とさらなる絶望と恐怖が起因して、上手く魔術の行使ができなかったのだ。

「ルアルちゃん危ない!!」

ニンバスは、そう言いながらなんとか前に出ようとするも、間に合わない。

ルアルはただ自分の無力さに唖然とし、絶望するだけだった。

目前にきたゴブリンが両手をあげて、ルアルに飛び込もうとする。

それに対して目を瞑ってしまうルアル。
もはやルアルは、戦意喪失していた。

しかし大きなゴブリンが何かに怯む声をあげた。

「グギャァア」

ルアルは、徐々に目を開けると、そこには大きな手のひらに掴まれたゴブリンの姿を見た。

あまりの奇妙さにルアルは目を丸くする。
また隣で見ていたニンバスは、唖然としていた。

ルアルたちは、その大きな物体の存在に気づいた。

逃げるのが夢中で足音が止んでいたことに気づかなかった。

上を見上げるように視線を動かすと、魔法の玉で青白く照らされた大きなゴブリンよりも、遥かに巨大な魔物の姿があった。

ルアルとニンバスはさらに目を大きく見開いて、唾を飲みこんだ。

掴まれたゴブリンは、そのまま握り潰されて骨が砕ける音が響く。

「ガアアァァア!」

悲痛な叫びが響きながらも、無慈悲に握り潰されてしまう。
そうして持ち上げた手を、巨大な魔物のお腹の方に持っていくと、そこから奇妙なほど四角い歯がずらりと並んだ不気味な大きな口が開き、魔物をそのまま食べ始める。
その姿はあまりにも恐怖、そのものだった。

バリゴリと骨ごと砕く咀嚼音が洞窟内に鳴り響いた。

それを見てルアルとニンバスは、完全に思考が停止していた。

動くことすらも叶わない。

そんな中レイトが叫び声を上げる。

「今だ!このまま出口へ行くぞ!!」

それにハッとしたようにルアルはレイトの声の方を見るとレイトは大きな魔物の右脇腹よりも少し離れた場所で立ち上がっていた。
そうして剣を握りながら手を振っている。

それに大きく頷いて、ルアルは走り出した。
それに続くようにニンバスもルアルの跡を追った。

そうして目の前で大きなゴブリンを食す巨大な魔物を横目に、3人は走り出した。

ルアルはさっきの魔物がなんなのか分からずに、悩んでいた。

(あんな魔物が、なんでこんなところにいるのよ)

3メートルはある巨大に、大人が横に5人ほど並ぶくらいに太い。そうしてお腹は、丸く、その中心部から大きな口がついており、その上にも頭がついていて口や目がついている。

とんでもなく不気味な魔物にルアルはより一層恐怖を感じていた。

巨大な魔物は食べるのに夢中で、ルアルたちに気づくことなかった。

脇を通り抜けられ、先に走るレイトの後に続いた。

そのまま目的の微かな残火がある位置まで来る。

巨大な魔物がどうやらこちら側に歩き始めたのか足音が聞こえ始めた。

そんな中走るのをやめたレイトは、ルアルとニンバスの方を向く。
ルアルとニンバスは、それを急に止まるレイトを見て驚きながらも自分達も止まる。

「…いきなり止まってどうしたのよ」

ルアルは、息切れしながらレイトに問う。
すると驚きの答えが返ってきた。

「俺があのでかい魔物を倒す」

そう言うと、みんな目を丸くして驚いた。

「何言ってるのよ!あんたあんな化け物に勝てるわけないでしょ!!」

ルアルがそう言うとニンバスも頷いて続けた。

「そうだ。ルアルちゃんの言うとおりだ。せっかくあの巨大な魔物から逃れるんだぞ」

ルアルもニンバスもありえないと言わんばかりにレイトを見ていた。
するとニンバスに背負われているルシィもレイトに問いだした。

「レイトくんどうしてなの?」

そう言われてレイトは答えた。

「わかんない」

レイトのこのふざけた理由にルアルがすかさず怒る。

「わかんないじゃないでしょ!あんたここまで来て死ぬつもり?こんな時にわがままなんて聞いてられないんだよ?!」

ルアルはレイトに詰め寄る。
それでもレイトは首を横に振ってルアルに言う。

「わがままじゃない。わかんないけど、このまま逃げてもダメな気がする」

ルアルはさらに問い詰める。

「気がするじゃないの!そんな理由で、ここまでのを、台無しにするつもり?」

そう言われて、少し黙ったレイトだが、やっぱり納得しない。むしろルアル達に、真剣な眼差しを向けた。

「ここまでのこと台無しにする気なんてない!なぜだかわからないけど、あいつを倒さないとダメって、俺の心が言ってるんだ!」

ルアルはレイトになんとか説得しようと話すも、レイトは聞く耳をもたなかった。

そこまでの何かがレイトには感じ取れていたのだ。

魔物の足音が近づいてくる。
徐々に緊迫した状態が戻ってくる。
そんな中、レイトは言う。

「俺だけが残る。みんなは先に出口に向かってくれ!その間に俺があの魔物を倒す」

そう言われても、納得できるわけもなくルアルも対抗する。

「あんた!私の魔術がなければ危険な状況がいっぱいあったでしょ?」

そう言いながら、一歩レイトの方へと近づくと、レイトの両肩を掴んだ。

「さっきはあんたを支えるって言ったけど、もう私には魔術が少ししか使えないんだよ…今の状態であの巨大な魔物なんて倒せない……」

そう俯いて呟いた。
ルアルは自分が情けなくて涙が出そうになっていた。
情緒が不安定で、自分でもどうしたらいいかわからない。
だからこそ危険を冒さず、誰もがみんな無事にここから出ると言う目標にすがっていた。

それでもレイトは首を縦に降らずに答える。

「ありがとう、ルアル」

そう言って、レイトの肩を掴んでいるルアルの手を握って離すとそのまま目前に持ってくる。

「俺は絶対に負けない!信じてくれ!」

ルアルはゆっくりと顔を上げる。
そこにはいつもの笑顔のレイトがいた。

それを見たルアルは、実際に大きなゴブリンを倒したレイトに対して安心感を感じてしまった。それに嫌気がさし、何も言わずにレイトから手を振り解いた。

「バカレイト!!」

そういってレイトに背を向けた。
少し黙った後、ルアルは口を開いた。

「もう勝手にすれば、いいんじゃない」

そう言ってルアルは、レイトを睨みつける。
それに心がギュッとしたレイトだったが、すぐさまに頭を下げた。

「ありがとう!」

それに対してルアルは頭を掻きむしる。

「あんたといると調子狂うわ」

その後にルアルは続ける。

「絶対に約束して、生きて帰ってくるって、無理しないって、ちゃんと勝てないなら逃げてきて!」

それに対してレイトは素直に受け取る。

「うん!約束する!!」

そう言って、レイトは魔物がいた方向へとすぐさま振り向く。

「待ちなさいよ、あんた明かりがないでしょ」

心配そうにそう言ったルアルだったが、レイトは顔色を変えずに首を横に振る。

「もう大丈夫だ、俺の雷でなんとかする。」

そう言って地面に落ちている木材の中から、ちょうどいい長さの木の棒を掴むと雷の力で木の先を点火した。

レイトは先ほどのゴブリン退治で雷の力をコントロールできるようになっていた。

それを見たルアルは正直驚いていた。

(ここまで使えるようになってたのね……)

レイトは木の棒につけた小さな光を前に照らすと、ルアルやニンバスを見る。

「ルアルたちはなんとか無事で出口を目指してくれ」

そうレイトが言うとルアルは答える。

「私たちのことなんか考えないで、自分のことだけ考えなさい」

レイトにとってそれは助言であったが、ルアルにとってはお願いだった。
この危険な状態からどうなるか見当もつかない。
それでもレイトの行動を止められないのは、少しばかり期待してしまったところがあったからだろう。

レイトは改めて背を向けて言う。

「じゃあ、無事にここからでられるようにな!」

火のついた木の棒を持ちながら、足音が鳴る方へと走り出す。
それを見てルアルは言う。

「あんたこそ気をつけなさいよ」

どこか悲しげな表情のルアルを見て、ニンバスはある決意をした。

「ルシィ、俺もいいか」

その一言で、ルシィはなんのことか察した。

「いいわよ、私はもう大丈夫だから」

するとニンバスはしゃがみ込んで背負ったルシィを下ろした。

ルシィはフラフラとしながら、立ち上がる。それを見てルアルが急いで支える。

「何をしてるんですか!?ニンバスさん」

そう言うと、ニンバスはルアルに見て言う。

「俺もレイトくんの後を追う」

それを聞いてルアルは驚いていた。
ニンバスの表情は先ほどとは違い、真剣に覚悟を決めた表情になっていた。

「俺ももう君たちに助られてばかりじゃダメだ。もしレイトくんに何かあったら俺が必ず連れ帰る」

ニンバスはそう続けると、自分が腰に巻いていた松明を取り出した。

ニンバスは、ずっと感じていた。
自分が何もできない役立たずで、ずっと自分の非力さと、自分よりも幼いレイトとルアルに助けてもらっている自分の情けなさに苛立っていた。
しかし、レイトの今の行動を見て、自分も怯えてばかりではダメだと改めて強く感じた。
だからこそ今本当の覚悟を決めたのだ。

もはや今のニンバスは、誰が止めてもレイトと同じように断固として、それを拒否するだろう。

それに気づいたルアルは、何も言わなかった。
そうしてルシィの肩をルアルが背負うと言う。

「ニンバスさん、ちょっときて」

「なんだ?」

そういってニンバスは、ルアルの前に立つ。
するとルアルはルシィを支えていない右手をニンバスの胸へ押し当てた。

するとそこから青い光を放つ。
ニンバスはそれに包まれる。

「!?」

ニンバスは驚きながらルアルを見た。

「微かな力だけど、これは魔力の防壁。どれくらい強い衝撃に耐えられるかわからないけど、ないよりはマシでしょ」

そう言いながらニンバスの顔を見上げた。
するとニンバスは自分の弱さゆえに、付与してくれた魔術だと思い、申し訳なさそうに答えた。

「いつまでもすまない、俺が不甲斐ないだけに」

そう言うとルアルは首を横に振った。

「違うよ。この魔術の効果がどれほどか、どこまで耐えれるかなんてわからない。もしかしたら意味をなさないかもしれない。それでも、ニンバスさんには、必ずレイトを連れ帰って来てほしい」

それを言った後にルアルは不安そうに続けた。

「私が許したせいでレイトは行っちゃった。きっと今のレイトは無茶をする。倒れて動けなくなるかもしれない。今の私じゃきっと力不足で連れて帰れない。だからこそニンバスさんあなたに行ってほしいの」

ルアルはレイトに対する不安と後悔で声が震えていた。その姿は、魔術を勇敢に使う魔術師ではなく、ただ何もできず、現状の不安を他人が解決してくれるという希望を押し付けてしまったただのか弱い少女であった。その姿を見たニンバスは、自分がより一層覚悟を決める。

「わかった。ルアルちゃん。何があろうと俺がレイトくんを連れ帰ってくる」

そう続けてニンバスは言う。

「ルアルちゃんは、ルシィを頼んだ」

ルアルは不安そうな顔をしながら頷いた。
そうしてニンバスは腰に巻いていた松明を、手に持ち火をつけると、レイトの後を追うように背を向けた。

「じゃあ、みんな無事にここから出よう」

それに対してルアルは答えた。

「絶対よ」

その一言にニンバスは笑みを浮かべて、レイトの後を追い始めた。

ルシィは、ルアルに肩を組まれながら、ずっと黙って、ルアル達を見ていた。
自分のため、いやこの村のためにここまで命をかけてくれるみんなに、何も言えなかった。
ここで自分が止めに入っても、それはみんなを侮辱しているとさえ感じていた。

(レイトくん、ルアルちゃん、そしてニンバス、私たちのためにありがとう)

そう心に思いながら、ルアルに顔を向けて言った。

「ルアルちゃん、みんなで帰れたら、たくさんのご馳走を用意しなきゃね」

それに対して、ルアルは少しでも明るく答えようとひきつった笑みを浮かべながら答える。

「そうですね。レイトやニンバスさんだけじゃなく、村の人とみんなで食べましょう!」

それに対して、ルシィは優しく頷いた。

そうして暗闇の中、遠くに見えるニンバスの灯りを最後に、背を向けるとルアルとルシィは、洞窟の出口へと足を運び始めた。

レイトの直感は何かある予定

16話までだすのに時間がかかりました。
この話が年内に終わるように努力したい。

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