11.魔物の住処

小説

その頃、ルシィは目を覚ましていた。
どうやら真っ暗闇の中、横たわっているらしい。
地面が硬く凸凹している感覚や、あたりの悪臭が、不快に感じて、体を起こす。
あたりを見回そうとするも真っ暗やみで何が何だかわからない。

「…ここはどこなのかしら?」

ルシィにとって、ここまでの記憶がない。
じっと考えて見ようとすると、背中の辺りがジンジンと傷んでくる。

(そういえば…私…)

徐々に最後の記憶を辿ろうとする。

外にいる時にいきなり背後から何か衝撃を受けたのを思い出す。
それから記憶がない。

思い出すたびに、背中の鈍い痛みが強くなってくる。
どうやら打撲しているのかしら?
そう思いながら、ルシィは辛い気持ちが口から漏れる。

「うう…」

数十秒じっとしていたが、動けないわけではなかった。そのためとりあえずどうにかしようと辺りを手探りしてみる。

すると何やら、水のようなものがあることに気づいた。

びちゃびちゃと音を立てながら、手探りするすると、そのすぐ近くに弾力がありながらも、湿ったものがある。

触れた瞬間、ルシィは驚いていたが、続けて手探ってみる。

弾力もありながら、何か料理の時に触ったことのある感触。一部固いもの、とんがっているもの、ルシィの頭には嫌なものが連想されていた。

すると、遠くから足音が聞こえる。

それに驚いてじっとしていると、足音が近くなってくる。
それと同時に何やら火の灯りが入ってくる。

すると前にあった物体が何かはっきりと見える。

それは、

腹を食い破られ、

肋骨が剥き出しにし、

真っ赤な水溜りの上にある

人間の死骸だった。

「きゃあああああ!」

思わず叫んでしまったルシィ、それに対して足音が近くなる。

「ゲフンゲフゲフゲフ」

そう鳴きながら、松明を持った魔物が入ってきた。
ルシィはどうやら洞窟内にある一室にいることに気づいたが、恐怖で真っ赤に染まった手のひらを口元へと持っていき、じっと丸まる。

体の震えが止まらない。

今いる場所は、きっと魔物たちの食糧部屋。
そう思いながら、あたりに転がっている人間の骨を見渡す。

魔物はルシィのことを気にかけることもなく、一目散に人間の遺体を掴むとそのまま引きずって、一室から出ていった。

だんだんと洞窟内が暗くなる。

あたりが暗くなるにつれて、ルシィは襲われずによかったと安堵するも、体の震えが止まらずにいる。

(誰か……助けて…!!)

そう思いながら、じっと自身の肩を抱きしめて、うずくまった。

何も見えない暗闇の中、1人で佇むしかない。

その頃レイトたちは、青年の案内で、洞窟へ向けて歩いているところだった。

「俺の名前はニンバスだ。よろしく頼む」

そう青年が言うと、それに返すようにルアルも挨拶をした。

「ニンバスさんよろしくお願いします。私はルアルです」

続けてレイトも話し出す。

「俺はレイトだ!ニンバス!よろしく!」

レイトのいつも通りの呼び捨てに対して、今回ルアルは指摘しなかった。
なぜなら直らないからである。
ルアルは、もはやレイトのしつけを諦めていた。

そんな話はどうでもいい。

3人はお互い挨拶をしあった。

「じゃあ君たちはレイト君とルアルちゃんだね」

そうニンバスが言うと、ルアルとレイトは頷いた。

「君たち、よくあのバケモノを倒したね。あれは一体なんなんだ?」

ニンバスが驚きを隠せずにいられないような表情で、レイトたちに尋ねるとルアルが答えた。

「あれは魔物です」

青年は不思議そうにしていた。

「マモノ?動物とは違うのか?」

そう言われるとルアルは頭を傾け少し悩む。
そして答えた。

「一種の動物ではあるんですけど、この世界の動物とは違って魔力を主に必要とする生き物なんです」

そう言うとニンバスは、なかなか理解できずにいた。

「まりょく?それはどういうものなんだ…」

ニンバスは申し訳なさそうに答える。
それに対してレイトは言う。

「大丈夫だ!俺もよくわかってない!」

それを聞いたルアルは、ため息をついて言う。

「あんたには一度話してるじゃない…」

そうだっけ?と頭を悩む仕草に、ルアルは一言「バカレイト」とつぶやいた。

それにはニンバスも苦笑いをしていた。

レイトは馬鹿じゃないと怒るが、無視してルアルは、話を続ける。

「この世界とは別に魔法の世界があります。魔法というのは、人々の想いの結晶、それを奇跡的な法則で扱えるようにしたのが魔術、その魔術を扱うには魔力という、この世界には馴染みのない力が必要なのです。」

「魔術…」

それを聞いてニンバスは、不思議そうにしていた。
それを見てルアルは続けて答える。

「たとえば人の身で火や水を起こしたり、傷を治したり、それらは全て魔術の行使によるものです」

ニンバスは目を丸くし、驚いていた。

「そんな力があったなんて知らなかった…」

そういうとルアルは首を横に振る。

「無理もないですよ。あまり魔術を使う人は、姿を見せません。私たちはこちらの世界にはあまり姿を見せたくないものなのです」

いつも小難しく教えてくるルアルとは、少し違って噛み砕くように教える。
それでもニンバスは、頭を悩ませる。

「…とりあえずわかった。だがあの魔物っていうのは、本来魔法の世界の生き物ってことなんだろ?」

そうです。と一言ルアルは答える。
レイトは、話を聞かずに木の棒を持って、雷を操る練習をしようとしている。
それをルアルは見ながら、話を続ける。

「魔法世界の生き物でも、あの魔物は、中でも最弱と言われるゴブリンだと思います。」

ルアルがそういうと、レイトは木の棒を地面に捨てて聞き返した。

「ゴブリン?」

そう言ってレイトは疑問に思うと、ルアルが答えた。

「ええ、私も実際に見たことないけど、特徴が緑色の皮膚に、大人の半分くらいの背丈で、群れで行動するらしいの」

へぇーっと頷きながら、納得するレイトとニンバス。
それに対してルアルは、話を続ける。

「それで恐ろしいところが、繁殖力が高い上に、雑食であり、食欲旺盛で生き物ならなんでも食べてしまうところ」

2人はルアルの話を真剣に聞いていた。
そしてルアルは恐ろしそうにして、続きを話した。

「噂話では、村一つが、ゴブリンによって食い尽くされるなんてこともあります」

ゴクリと唾を飲むニンバス。
思った以上に恐ろしい化け物に身震いするが、早く解決しなければならいないと改めて決心した。
それとは別にひとつ疑問に思ったことをルアルに聞く。

「なぜそんな魔物ってやつがこの村にいるんだ?」

そう問われるとルアルは一瞬言葉が喉に詰まりながらも答えた。

「……わかりません。本来この世界にいないはずですが……迷い込んだとしてもここまで被害があるなんて聞いたことない…」

悩むルアルにレイトが言う。

「ルアルですら魔物を見たことないんだろ?
そんな珍しい生き物についてわからないだろ」

そういうとルアルは少し恥ずかしそうに顔を赤くした。
どうやらあまり知らないことを恥じているようだ。

「べ、別に珍しくないわよ、ゴブリンくらい…」

それに対して、レイトが言う。

「珍しくないのに見たことないの?」

その問いに対してルアルは言った。

「私はその…向こうの世界だと……」

と言いかけた途端に、ルアルは、手を横に出して言う。

「止まって」

その言葉に対して、レイトとニンバスの2人は驚いて止まる。

「ゴブリンがいる」

そうルアルが言うと、レイトはすかさず剣を取り出して構えるとすぐさま叫んだ。

「どこだ!!」

と途端にルアルがレイトの頭を殴り、レイトは地面に倒れた。

「馬鹿!!なんで叫んでんのよ!!」

レイトは、かすれた声で答える。

「…ゴブリンが…でたからだ……」

ルアルはそれに怒った。

「あんたが叫ぶせいで気づかれるでしょ!!」

ルアルもまあまあ大きな声を出してると思ったレイトだったが、反論するのはやめよう、そう考える。

すると道の脇の深い草むらから緑の化け物、ゴブリンが飛び出て来た。
どうやら先ほどの音でバレたらしい。

「ゲフフフ」

そう鳴きながら一匹出てくるとすかさずこちらの方を睨んで走り寄ってきた。
それに対してニンバスは叫んだ。

「来たぞ!!」

ルアルはそれ見て顔を歪める。

「あんたね!」

ルアルがそう言うと、レイトは気を取り直し、すぐさま立ち上がるとルアルの前に出る。

「ルアルは何もしなくて良い、俺がなんとかする」

ルアルは、それに対してなんでよと言わんばかりに、レイトを見る。

「あんた負けそうになってたじゃないの」

ルアルは、無理しようとしているレイトに反論する。
それに対してレイトはニヤつくと言う。

「もう大丈夫だ!」

ルアルは、そのよくわからない自信ある一言に不安を感じる。

「あんた一回しか戦ってないのに、大丈夫ってなによ!」

そうルアルが言うものの、レイトはゴブリンの元へと走っていく。

それにため息をつくとルアルが、すかさず杖を取り出した。

(もうあいつ無茶してないでしょうね!)

そう思いながら、魔術を使う準備をした。

ゴブリンは走り寄ってくるレイトを見て、右手に持った棍棒を頭上に掲げて構える。

棍棒は、両端が鋭く尖った長方形の石が先端についている。

直撃すればひとたまりもない。

それでもレイトはゴブリンの前まで来ると、剣を振るわずに構えた。
一息つく。

(力比べじゃ俺が負ける。)

そう思っていると、ゴブリンがレイトの頭上目掛けて棍棒を振ってきた。

(じいちゃんが言っていた。自分より強い力の攻撃は)

咄嗟に腕を頭の上に持っていき剣先が下にいくように斜めに構えると、大きく右足をゴブリンの左側へ踏み込む。

それと同時に振られた棍棒は、斜めに構えられた剣とレイトの踏み込みによる移動に、流され、レイトの左側へと振り落とされた。

(受け流せる!!)

そのまま体制を崩したゴブリンの背後に回ったレイトは、すかさず剣を振り上げると、切り落とした。

「ガアフ!」

そう鳴いて血を吹き出したゴブリンは倒れた。

「よっしゃあー!!」

そう言って目の前に倒れたゴブリンの遺体の前に立つと、ルアルたちの方を見てレイトは手を振って喜ぶ。

しかし、ルアルは叫んだ。

「まだ生きてるわよ!!」

レイトは目を丸くし、後ろを振り向こうとするも、ゴブリンは、すでに立ち上が。、咄嗟に棍棒を振る。

「ゲエエフ!」

レイトは、驚いて一歩行動が遅くなってしまった。

直撃する!

そう思ったレイトだが、棍棒は弾かれていた。

何が起こったわからなかったが、杖をこちらに向けていたルアルを見て気付いた。

(ルアルの魔術で弾いたのか!)

またルアルに助けられたことに、自分の情けなさで心がいっぱいになる。
悲しい気持ちで、奥歯を噛みたくなる。

だが、そんな暇はない。
ルアルの叫び声が聞こえる。

「よけて!!」

杖を構えるルアル。

それを見てレイトは横に飛ぶ。

「火の魔術!イグス!」

そう言うと、構えた杖から、火の矢が飛び散った。
放たれた火の矢は、真っ直ぐ飛んでいきゴブリンにあたる。

「ガアアアアアア!」

そう叫んでゴブリンは燃え、そのまま崩れ落ちる。火を消そうと転がるも、簡単には消えず、そのうち少しずつ動かなくなり、完全に死んでしまった。

ニンバスは、この2人の光景を見て、驚きで隠せなかった。

「す、すごい…」

つい声が漏れてしまう。

そんな中、ルアルはふぅと一息つく。
レイトはルアルの方を見ると、申し訳なさそうに言った。

「すまん、ルアル」

そう言うと、ルアルはレイトに怒る!

「あんた!自分から私に協力するように頼んどいて、なんなのよ!」

見下ろすように怒ると、ルアルより身長が低いレイトはさらに小さくなる。

「だって…」

そうレイトが言いかけると、ルアルは遮るように言う。

「だってじゃない!あんたが無理して、傷でも負ったら、ルシィさんを助けることもできないのよ!!」

それは確かにとレイトは思った。
しかしレイトにも思うことがある。
それを伝えようと口を開こうとしたときに、ニンバスは2人の間に入った。

「まあまあ、魔物を倒せたんだから良いじゃないか!それより先を急がないとルシィの身が心配だ」

ハッとした顔つきでルアルは一言謝る。

「すいません」

そう言うとニンバスは顔を横に振った。

「正直俺じゃ魔物をこんな風に対処することができない。だから君たちにしか頼れない自分が情けないよ」

ニンバスも、自分が何もできない悔しさで胸を痛めていた。

「気にしないでください。それより急ぎましょう」

ルアルはそう言うと、ニンバスは、頷いた。

ニンバスは、案内するために前を進もうとする。

するとルアルが言う。

「待ってください。今から私たちに魔術をかけます」

そう言って、杖を取り出した。

「どういう魔術なんだ?」

レイトがそう言うと、ルアルは答える。

「姿隠しの魔術よ」

レイトは、なんだそれと言わんばかりに首を傾げた。
ルアルは、地面にしゃがむと大きく円を書きながら答える。

「姿隠しの魔術は、名の通り、姿を隠す魔術よ。これであのゴブリンたちに少しでも見つからずに、進めるはずよ」

レイトは、そんな魔術があることに驚き、ニンバスは、信用できるのか疑心暗鬼でいた。

そうしてルアルは地面に円を描き終えると立ち上がり、この円に入るよう手招きする。

それを見て、レイトとニンバスは、ルアルの言う通りに円に入った。

「私はまだ慣れてないから、こうやって範囲を決めないと難しいの」

そう言いながら、ルアルは地面に杖を指し、真上へ反円を描くように杖を振って言う。

「バニーシュ!」

すると杖先から小さな青い光が放たれ、同時に地面の円が青く輝きだした。

ニンバスもレイトも驚いていた。

放たれた光は、魔力が飛び散りそれは残滓として頭上を青い光としてキラキラと美しく輝いている。
その美しき輝きは、まるで星のようだ。

「これが魔術…」

ニンバスはそう呟いている。

「さあ、行きましょう」

そうルアルが言うと、美しい輝きについ見惚れていたニンバスは我に戻り、頷いた。

魔物の住処を案内するためニンバスが先頭に立ち、ルアルが後をついていくように進む。
レイトは1番後ろを進んでいたが、ルアルの後ろ姿をみて心配していた。

ルアルは魔術を使う度に、疲労が見えている。

今日だけでも、ずっと魔術を使い続けている。

ルアルはレイトに無理をするなと怒ったが、実際のところルアルの方が無理をしているのではないだろうか…

そう思うレイトは改めて、気を取り直す。

(もしもの時のために俺がなんとかしなければ!!)

剣のつかを握り直し、2人の後を追った。

3人は、森の中を突き進む。
するとニンバスが口を開いた。

「もう少しで魔物の住処に辿り着ける」

そういって歩くとルアルがまた止まるように言う。

「ゴブリンがまたいる」

次は、レイトも冷静に静まった。

ルアルが屈んでコソコソと前へ進むと、草むらから少し顔を出して覗く。

ニンバスもレイトもついていきながら、前方を見るとニンバスは、答えた。

「あれが魔物の住処だ」

そこには、魔物の住処であろう大きな穴が空いた洞窟があり、その前に多くのゴブリンが立っていた。


まだ諦めてません。
次の最新話もすぐきます!
絶対です!!

コメント

  1. いつも応援しています
    今後も頑張ってください!

    • ありがとうございます!

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